シネリエ CINELIER −映画のソムリエ −

不機嫌な果実©1997 松竹株式会社 株式会社東北新社クリエイツ/103分/カラー

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夫以外の男とのセックスは、どうしてこんなに楽しいのだろうか。

「夫以外の男とのセックスは、どうしてこんなに楽しいのだろうか。」その答えを探すように主人公・麻也子は不倫を重ね、官能的なストーリーを綴っていく。現代女性のリアルな願望と、そのしたたかさ、そして大胆な性描写で、衝撃の問題作といわれた林真理子原作「不機嫌な果実」の映画化。

主人公は、32歳の水越麻也子。2つ年上の夫と結婚して6年。夫とのセックスも満たされず、精彩を欠く日常に「私って、損してるかもしれない」という思いにとらわれている。

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「美しくない不倫を小説に描きたいと思った。」 原作者・林 真理子さんのコメントより

 主人公の人妻は、慎ましくもなければ、罪の意識にとらわれたりもしない。バブルの最中に青春時代をおくった彼女は、結婚することにより、急に自分の価値が下落したことに気づく。そして「私だけが損をしているのではないか」という意識の下、恋の冒険を始めていくのである。主人公の麻也子に嫌悪を示す男性は多かったが、女性からはたくさんの共感をいただいた。私の中の彼女のイメージは、品があって知的で、現代的な美しさを持っている三十代の女性だ。今回映画化するにあたって、ぴったりの女優さんが存在していた。南果歩さんは、おそらく、男と女の愛、そしてもっと先にある、生きることの虚無を演じてくれるに違いない。

R18の性表現の下に流れるメッセージ(シネリエ編集部S)

 「夫以外の男とのセックスは、どうしてこんなに楽しいだろうか」
  97年、このセンセーショナルなキャッチコピーとともに公開された本作は、林真理子さんの原作本や、石田ゆり子さん主演のTVドラマとの多メディア展開により、正に社会現象となりました。ちょうど今から10年前の97年といえば、流行語大賞に「失楽園」が選ばれた年。ちなみに前年には「援助交際」が入賞しており、当時の日本は、バブル経済が残した傷跡の処理に疲れ果て、閉塞から虚無、虚無から退廃へと向かっていた時代といえるのではないでしょうか。本作もこれらと同様に、絶対的に思えていた価値観が崩れる中、はけ口や逃げ道を探すように生まれた時代の要請なのかもしれません。
  それが破滅的な結末を招こうとも、社会のモラルなど捨てて、なすがまま愛に溺れたい。当時は、このような愛のカタチを、ピュアだとか本能だとか、何か肯定的ですらあるような評価が多かったように記憶していますが、はたして本当にそうだったのでしょうか。
 ヒロインの麻也子は32歳。当時の30代前半といえば、思春期は80年代真っ只中。物質的な欲求が一通り満たされ、人々が更に高次元の欲求−自分らしさだとか、自己実現だとかといった、精神的欲求をもち始めた時代。毎年100万や200万もの夥しい数の人間がこの世に生を受ける競争率の中で、オンリーワンなどという、途方もないゴールを誰もが求め始めた時代。“私”って何だろう?そんな悩みを抱きつつも、思春期をバブルの熱狂に現を抜かしてしまい、遅まきながら三十路となって初めて、その難題にリアルに向き合ってしまう。

 「私って、損してるかもしれない」麻也子のこの思いは、決してピュアや本能から生まれてくる言葉ではありません。これは社会的欲求からくるフラストレーションそのものであり、平たく言えば、麻也子の行う行動原理は、基本的に自分探しなのです。昨今、注目を集める脳医学者の養老孟司氏や茂木健一郎氏は、現代社会を脳化社会とも評し、人間が脳ばかりで自分の個性を考えすぎになっているのだと、どんどん頭でっかちになっているのだと著していらっしゃいますが、麻也子の抱える「不機嫌」というのは、正にこの脳化社会現象のハシリだったのでしょう。
 そういえば、先日『不機嫌な男たち』という韓国映画が公開となったのですが、そのストーリーは、行き場のない虚無感に襲われる2人の30代の男が、ゆきずりの女と関係をもつ…とのことです。高度成長を遂げ、02年のW杯ではその勢いを全世界に見せつけた韓国も、近年の経済不況の影響か、誰もがモノな方向を向くことのできた時代から、徐々に変容しつつあるのかもしれません。
  本作は、確かに麻也子の過激な性表現に目を奪われがちなのですが、本質的なメッセージはここにあるのではないか・・・と、予備知識なしでそういう感想を抱いていましたが、改めて当時の関連資料や記事を調べてみると、その直感は間違ってはいないようです。
  以上、いずれにしろ見所満載の一本。DVD化もされていないので、この機会に是非いかがでしょうか。

南 果歩:プロフィール

1964年兵庫県生まれ。83年小栗康平監督『伽倻子のために』(84)で映画デビュー。大林宣彦監督の『漂流教室』(87)、『日本殉情伝・おかしなふたり・ものくるほしきひとびとの群』(88)、黒木和雄監督『TOMORROW/明日』(88)に出演後、90年には『夢見通りの人々』等でブルーリボン賞助演女優賞に輝くとともに、エランドール賞も獲得する。その後も『OPEN HOUSE』(97)、『HAZAN』(03)、『ニライカナイからの手紙』(05)等、幅広く出演している。夫はハリウッド進出も果たした渡辺謙。

鷲尾いさ子:プロフィール

1967年新潟県生まれ。中学生時代からモデルとして活躍しながら、86年大林宣彦監督『野ゆき山ゆき海べゆき』で映画デビューし、毎日映画コンクール新人賞等を受賞。その後も本作の他、『瀬戸内少年野球団・青春篇/最後の楽園』(87)、『ボクが病気になった理由』第1話(90)、『わが愛の譜・滝廉太郎物語』(93)、『北斗の拳』(95)、『ベル・エポック』(98)等に出演。またTVドラマやCMでの活躍は周知のとおり。

鈴木一真:プロフィール

1968年静岡県生まれ。日本人として初めて、ミラノコレクションに立つなどトップモデルして活躍後、95年に俳優に転身。『ゲレンデがとけるほど恋したい』(95)で映画デビュー後、本作の他、『お受験』(99)、『突入せよ!あさま山荘事件』(02)、『ロボコン』(03)、『NANA』(05)、『天使の卵』(06)等数多く出演。また、TVドラマ、CMでも幅広く活躍するとともに、舞台でも06年の舞台「錦鯉-にしきごい-」では主演を果たした。

成瀬活雄:プロフィール

1964年愛知県生まれ。東京大学文学部国文学専修課程卒業後、柳町光男監督『愛について、東京』(93)、篠田正浩監督『写楽』(95)等の助監督を務め、本作が初監督作品である。その他、脚本に携わった作品として篠田監督の『瀬戸内ムーンライトセレナーデ』(97)及び『梟の城』(99)等がある。近年では活躍の場をTVドラマにも広げ、「夢で逢いましょう」、「嫌われ松子の一生」(ともにTBS)の脚本も手がけている。

林 真理子:プロフィール

1954年山梨県生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒。コピーライターを経て、83年、エッセイ集「ルンルンを買っておうちに帰ろう」を出版。大ベストセラーとなり、一躍時の人となる。その後、エッセイ「花より結婚きびダンゴ」で結婚ブームを巻き起こす等、人気エッセイストの地位を確立。その後、テレビ、CM等にも出演するが、84年に書いた処女小説「星影のステラ」が直木賞候補になったのを機に、執筆業に専念。86年「最終便に間に合えば」「京都まで」で第94回直木賞受賞。その後の主な著書に「白蓮れんれん」、「みんなの秘密」等。

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キャスト

  • 水越麻也子南 果歩
  • キリコ鷲尾いさ子
  • 工藤通彦鈴木一真
  • 柏木光枝鰐淵晴子
  • 武藤れいこ余 貴美子
  • 南田三郎石原良純
  • 水越しず子吉行和子
  • 水越航一美木良介
  • 野村 修根津甚八

スタッフ

  • 監督成瀬活雄
  • 脚本筒井ともみ
  • 原作林 真理子
  • 撮影藤澤順一
  • 音楽荻野清子
  • 美術磯田典宏
  • 照明金沢正夫
  • 録音松本 修
  • 編集宮島竜治

原作紹介

林 真理子「不機嫌な果実」(文藝春秋刊)

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